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ワイルド、オールド、シーサイド (南紀温泉めぐり・前半)

南紀には、魅力的な温泉露天風呂がたくさんある。
そのなかでも、川湯温泉の「仙人風呂」、湯の峰温泉の「つぼ湯」、そして白浜温泉の「崎の湯」は、知名度と存在感において御三家といっていいだろう。
私は、温泉好き、露天風呂好きを自称しておきながら、じつはまだこの御三家のどれにも入ったことがなかった。

春というにはまだ早い2月に、思いがけず何の予定もない連休が取れた。
天佑ともいうべきタイミングだったので、1泊2日で御三家を一気に楽しむ計画を立てた。
だが、この御三家、容易い相手ではない。揃いも揃って、入れるかどうかは行ってみないとわからない、というシロモノなのである。
期待とともに、多少の不安を抱きながら、車で自宅を出発した。

晴れた空の下、阪神高速湾岸線から阪和自動車道を南下し、田辺からは国道311号線に入る。紀伊半島の南部を横断する国道311号線は、熊野古道の中辺路をたどる道でもある。
巨大な山塊を縫うように続く道路は、車の量も少なく快適なドライブが続く。道中にはユネスコの世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に指定された史跡も多い。心がひかれるが、今回の旅の目的はそちらではない。
1時間ほど走ると、車内に流れ込んでくる空気に、ほのかな温泉の匂いが混じってきた。

国道を逸れてトンネルを抜けると川湯温泉に着いた。
清流の大塔川に沿って、中規模の旅館が立ち並ぶ。ありふれた山間の温泉地という風情だが、川を掘れば約70℃の天然温泉が湧きだすという面白い特長を持つ。スコップを手にしてマイ露天風呂を作るという、フリーダムかつワイルドな入浴が楽しめることで有名である。

御三家のひとつ「仙人風呂」は、川湯温泉ならではの露天風呂だ。
大塔川の流れを堰き止めて、幅15メートル長さ50メートルの巨大な湯船というか温泉プールが造成されている。湯船のすぐ横にはパワーショベルが鎮座していて、露天風呂というよりは工事現場というのがふさわしい有様である。

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これほどの規模の露天風呂でありながら、「仙人風呂」は大塔川の水量が少ない11月から2月までの間だけしか作られない。その上、そもそもが川の中なので、増水すると入浴できないどころか、風呂そのものが流失してしまうこともあるという。
期間限定で、しかも大塔川のご機嫌次第。行ってみないと入れるかどうかわからないというのは、そういうことだ。
この日の大塔川は穏やかな流れで、「仙人風呂」は入浴可能だった。

廃屋を改装した脱衣所で水着に着替え、ビーチサンダルをつっかけて風呂に向かう。水着着用の義務はないのだが、申し訳程度に葦簀の囲いがあるだけの超オープンな混浴風呂である。温泉には裸で入浴すべしをモットーとしているか、よほど肉体美に自信がある人でないかぎり、水着着用がエチケットというものだろう。
それにしても、冬の温泉街を海水浴かプールに行くような恰好の人々がうろうろと歩く光景は、当事者ですら失笑を禁じえないほどミスマッチだ。今まであちこちの露天風呂を巡ってきたが、これほど違和感のある入浴は初めてだった。

仮設のつり橋を渡って、いざ入浴である。
膝までの深さの湯船を満たす湯は、足元湧出の源泉と川の水が混ざった絶品。
だが、見てのとおりのワイルドな風呂だ。湯加減の管理などは、まったくなされていない。足を浸すこともできないほど高温な場所もあれば、水風呂のような冷たい場所もあって、適温の場所には人だかりができている。

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それと水質(泉質ではない)は、はっきり言ってあまりよろしくない。言い方は悪いが、大きな水たまりみたいなものなので、水中には湯垢か泥か判然としないものがうようよと浮遊している。綺麗好きな人は、共同浴場で上がり湯を使うと良いだろう。
いろいろ書いたが、「仙人風呂」は解放感抜群で、じつに気持ちの良い露天風呂だった。これを無料で提供してくれる川湯温泉の人々には、頭が下がる思いだ。ちなみに、風呂の入り口には募金箱があるので、感謝の気持ちを込めていくばくかの寄付するのも良いだろう。


御三家のひとつ目は、無事にクリアできた。幸先は良いので、この調子で次に行こうと思う。

川湯温泉をあとにして、鄙びた山村を抜ける旧熊野街道を走り、湯の峰温泉を目指す。そこにあるにある「つぼ湯」が、御三家の二つ目だ。「仙人風呂」とは違って年中無休で、営業時間中であれば入浴できる共同浴場だが、この風呂にも御三家を名乗るだけの事情がある。ある意味では、御三家のなかでもっとも難易度が高いかもしれない。

「つぼ湯」は、その名の通り壺のような小さな岩穴に自噴する温泉だが、開湯以来1800年の歴史を持つ日本最古の共同浴場であり、おまけに「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として世界遺産にも登録されている。
とんでもなくプレミアムな風呂なので、当然のごとく人気が高い。休日はおろか平日でも大勢の人が訪れるが、湯船は小さいので一度に入浴できるのは2~3人が限度である。混乱を避けるため、一回30分ずつの貸切にして、入浴希望者は受付をしてから順番を待つという仕組みになっている。予約はできず先着順なので、すぐに入れることもあれば、数時間待つこともあるという。行ってみないと入れるかどうかわからないというのは、そういうことだ。

車窓の谷が狭くなり、湯の峰温泉に着いた。
せせらぎのような四村川の両岸に小さな旅館が立ち並び、空気に混じる温泉の匂いはかなり濃厚だ。川岸には湯筒という高温の源泉湧き出し口があって、土産物屋で買った玉子や野菜を茹でて食べている観光客もいる。山紫水明で開放的な雰囲気の川湯と違って、こちらは落ち着いた湯治場の雰囲気を漂わせていた。

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本来なら、のんびりと散策でも楽しみたいところだが、私はわき目もふらずに「つぼ湯」の受付に向かった。

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【後半に続く】
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コメント
1332:わあ by 八少女 夕 on 2017/05/25 at 18:35:49 (コメント編集)

温泉だ、温泉だ〜。
さすが日本最古の湯治場のある紀州、いろいろな温泉があるのですね。

川を塞き止めて作る露天風呂ですか。すごいけれど、これは昔はどうしていたんでしょうね。

そして、温泉は好きだけれど、二月にそういう露天というのはかなり出入りする時に寒かったのではないかと、といいつつも、写真では全然寒そうではない?! 夏のビーチみたいですが(笑)

そして、いくら待つのかわからない謎の温泉とか!

ううむ、マニアックですが、無事に入れたのでしょうか。後編、お待ちしています。

1333: by 山西 サキ on 2017/05/25 at 19:45:18 (コメント編集)

あ~TOM-Fさんお忙しそうで大変なのかなぁ。と思っていたのに、いつのまにやら温泉三昧に・・・。
名調子の紀行文から楽しんでおられる様子が伝わってきて羨ましいです。
「仙人風呂」と「つぼ湯」は聞いたことがありましたが白浜の「崎の湯」は・・・あの海の傍にあるやつでしょうか?
「仙人風呂」はそれこそ夕さんがおっしゃておられた欧州の温泉「温泉プール」に相当する物なんでしょうが、ちょっと雰囲気は異なりますね。人工なのに人工の雰囲気が全くなくて、野趣に溢れるというか、管理されてないというか、これは入ってみたいです。あ、水着は付けた方が良さそうですね。
「つぼ湯」は色が変わるやつかな?湯の峰もひなびた感じが素敵です。
後編を待ちます。

1334:>八少女夕さん ありがとうございます by TOM-F@管理人 on 2017/05/26 at 18:08:12 (コメント編集)

>八少女夕さん

仰る通り、紀州には意外なほど(火山はないのに)温泉が湧きだしていまして、しかもその歴史も古い。熊野詣との関係みたいですね。
仙人風呂も歴史は江戸時代までさかのぼるようです。当然、当時は手掘りだったと思われますが、まあ日本の土木技術はかなり優秀でしたからね。
そうそう、寒かったですよ。天気が良かったし、雪がなかったので、写真ではそんなに寒そうじゃないですけど、2月ですからね。入る前もガクブル状態でしたが、上がった後がきつかったなぁ。そこでラップタオルが大活躍でした。
謎の温泉「つぼ湯」の顛末は、来週にアップします。おたのしみに。

コメント、ありがとうございました。

1335:>山西サキさん ありがとうございました by TOM-F@管理人 on 2017/05/26 at 18:09:41 (コメント編集)

>山西サキさん

はい、忙しいフリをして、温泉に行ってました(^_-)-☆
といっても、あれ以降で連休とれたのはGWだけという、社畜ぶりで(笑)

もともと温泉好き、露天風呂大好きなヤツなので、ほんと楽しかったです。
「崎の湯」は、仰る通り海のそばにあるお風呂です。
「仙人風呂」は、河原の土砂で造成されていて、片方は自然の崖をそのまま使っていました。造成された側はコンクリートの型枠がしてあって、ほんとにプールみたいでしたが、崖側は自然の川岸そのもの。野趣たっぷりでしたよ。昼も楽しかったですけど、夜も雰囲気があってよさそうなので、ぜひお出かけください。水深が膝までしかないので、老若男女にかかわらず水着は必須かと。
「つぼ湯」はそうです、一日のうちに七回も色が変わる、と言われています。
「つぼ湯」と「崎の湯」、さて無事に入れたのか、後半をお楽しみに。

コメント、ありがとうございました。

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