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Le vent se lève

 『風立ちぬ』(かぜたちぬ)は、宮崎駿の連載マンガを原作にした劇場用長編アニメーション映画で、2013年7月20日に公開された。

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 飛行機好きな宮崎駿が、ゼロ戦の設計を手がけた実在の人物である堀越二郎を扱った映画で引退の花道を飾るということで、気合を入れてDVDを拝見した。その感想をひとことで表すと、「微妙」だった。

 アニメーションの技法については、さすがのジブリ品質で、文句のつけどころはない。最近のデジタル精細アニメとは一味違う、べたっとした油彩のような濃厚な作画だが、長時間見ていても疲れない。デフォルメしすぎかな、という描写も目立ったが、全体から見ればアクセント程度で許容できる範囲だった。

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 音楽は、どうも印象に残らなかった。悪かったということはないが、いい仕事はしていなかったのだろう。

 声優のキャスティングについては、失敗だったと思う。ジブリのアニメで毎回指摘しているが、アニメ映画にはプロの声優をキャストすべきなのである。それと、効果音もきちんとプロの仕事に任せて欲しいと思う。人の声を使うという発想は奇抜だが、準主役ともいうべき飛行機のエンジン音があれでは残念でしかない。

 さて、この映画の感想が「微妙」となったいちばんの原因である、シナリオと演出だが、これは賛否が分かれるところだろうと思う。
 ともすれば技師による「プロジェクトX」か、鬱々とした反戦映画になりがちなところを、堀辰雄の名著「風立ちぬ」と「菜穂子」のストーリーを取り込むことで、爽やかで切ない恋愛映画の要素も持つ作品にまとめあげたこと自体は、上手かったと思う。

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 しかし、シナリオと演出の拙さで、その要素がお互いを活かしきれず、どっちつかずに終わってしまったことは残念だった。喫煙シーンの多さが是非を問われたり、二郎と菜穂子のラブシーン(?)があれこれ取りざたされたりという瑣末な部分の話ではない。夢を追うことが戦争の道具を作りだすことに繋がってしまったり(あまつさえそれで多くの人が亡くなったことが間接的に語られている)、愛するひとが病に冒されて早世するという悲しみを味わったりと、悲劇的要素には事欠かないのに、その悲劇性がまったくといっていいほど画面から伝わってこなかったことが問題なのだ。

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 技術者の苦悩、男女の悲恋、戦争や武器への批判。そのいずれでもいいが、なんらかのメッセージ性を求めてこの映画を見ると、いささか肩透かしを食らうことになる。私も初見では、かなりがっかりした。スタジオジブリという看板を背負って、相当な制作費やリソースを使って、なぜ宮崎駿はこんな映画を作ってしまったのだろうと思った。
 だが、二郎がカプローニと菜穂子から、「生きろ(生きて)」というメッセージを受け取るラストシーンを見て、すこし考えさせられた。先に述べたとおり、この映画は、「生きろ」というメッセージを観客に伝えようとしていない(としか思えない)。なのになぜ、あのラストシーンなのか、という疑問である。
 私がこの作品の主人公である二郎に抱いた感想は、自己満足で薄情で、優しいようで冷たい男だ、というものだ(あくまでも映画の主人公としての二郎に対して、である)。こういう主人公は、普通なら糾弾されるはずだが、逆に許される形で物語は終わる。これは、自己中心的に夢を追い続けることの残酷さと、それに対する贖罪を描こうとしたのではないか、と解釈することもできる。だとすると、アンバランスに多い「夢」のシーンにも、納得がいくのだ。

 いずれにせよ、稀代のアニメーション作家の引退作として、話題に事欠かない問題作であることは間違いないだろう。だが、こんなご時勢だからこそ「ああ面白かった(感動した)。さて、明日からまた頑張るか」と思えるような映画を作って欲しかったと思うのである。
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コメント
676:こんばんは~! by 山西 サキ on 2014/09/13 at 21:29:38 (コメント編集)

サキはまだこの作品を見ていません。
予告編や特集番組を見て若干の違和感を感じて、まだそっと置いてあるのです。
愛する人が病に冒されて早世するという予感だけで、もう基本的に臆してしまうのですが、イメージを壊したくないと無意識に思っているのかもしれません。
どうかな?
TOM-Fさんの記事を見てますます臆しています。
監督も少しずつ歳をとっています。
いつまでも「紅の豚」とはいかないんでしょうね。
エンディングに書かれたTOM-Fさんのご意見に賛成です。

678:Re: こんばんは~! by TOM-F@管理人 on 2014/09/14 at 21:57:25 (コメント編集)

> 山西サキさん

そうですね、作品に賛否両論が出るのはこの映画に限らないことですが、「感動した、号泣した」という意見と「つまらなかった、わからなかった」という意見が同数くらいあるようですね。私は、後者の方です。
べつに、メッセージとかそんなのは無くてもかまわないんですけど、肝心の感動がまったく無いのは、どうにもいけません。劇場に行かなくてよかったと、思っちゃいましたからね。

ただ、映画だけでなく芸術なんてものは、人それぞれ感動のポイントが違うものなので、やはり見てみるしかないでしょうね。DVDなら手軽なので、ご覧になることをお勧めしますよ。
「紅の豚」のように、無駄な力が入っていない方が、かえって面白いものですね。

コメント、ありがとうございました。

680:分かります! by lime on 2014/09/16 at 07:17:27 (コメント編集)

私もこの映画を観ていないのですが、きっとTOM-Fさんと同じような感想を抱くと思いました。いろんな人たちの感想や、メイキング番組を見ていて、この映画は感動や、戦争の酷さを伝えようとはしていなくて、ただその渦に巻き込まれた人たちをリアルに描いたんだなと感じました。
リアル。これは、「魅せる」という戦略を放棄した、本当に現実的という意味のリアルで、折角作品する意味が無いように思えたんです。
TOM-Fさんと同じで、私も声はプロの声優さんに、音楽・効果はぐっと心を惹きつける迫力がほしいといつも思っています。
ジブリなりの、「他とは一味違う」芸術作品なのでしょうが、私も見終わった後、「ああ、やっぱりアニメってすごいな」って、興奮して劇場を去りたいです。
戦争の悲劇をこれ見よがしに残酷に伝えてほしいとは思いませんが、(もう、だれしも分かり切っている悲劇ですから)やっぱりアニメにする以上、アニメでしか得られない感動がほしいな、って、思います^^
(わ、長々と書いちゃってすみません。けっこうアニメって、こだわりがあって)

681:Re: 分かります! by TOM-F@管理人 on 2014/09/16 at 20:29:47 (コメント編集)

> limeさん

この映画、宮崎駿が子供向けアニメ作家という顔を捨てて取り組んだ作品だったのだろうと思いました。
作中の二郎は、あるいは誰かの合わせ鏡的な存在だったのかもしれません。夢を追うなんていっても実際にはこんなもんだよ、そういう生臭さに私をはじめとする少なからぬ観客は困惑し、置いてけぼりをくったような気がしたのだと思います。
いまのジブリがやっている制作は、小さなスタジオや若い監督が話題性を求めてやるようなことですね。ジブリくらいになれば、観客とガチで激突する正々堂々たる横綱相撲をとってほしいものです。
私もアニメが好きで、ジブリにはとくに思い入れもあるので、ついつい語ってしまいます(笑)
マーニー、どうしようかな……。

コメント、ありがとうございました。

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