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ACROSS THE TOKYO

東京に出かける機会ができた。
なんとなくデジャブを感じるが、たぶん気のせいだろう。

往路は、ミニスカートのキャビンアテンダントを目当てにして、神戸空港発のSKYMARKを手配した。新幹線なら三時間かかる距離を一時間に縮めてくれるので、そのぶん東京でゆっくりできる点もありがたい。
ところが、邪な下心が災いしたのか、当日システム障害でチェックインが遅れたうえに、使用する機材の遅着やら、羽田空港の滑走路一部閉鎖やらトラブルが重なって、結局二時間遅れでの到着となった。地上時間を加えると、新幹線に完敗だった。しかも、キャビンアテンダントは普通の制服で、ミニスカートではなかった。

今回は、以前から気になっていた場所を、新作小説のロケハンもかねて何箇所かまわろうと思う。

まずは、京急蒲田から徒歩で東急蒲田に出て、池上線に乗り込む。
蒲田から五反田までを結ぶ池上線は、その名前に惹かれていつか乗ってみたいと思っていた路線だ。べつに、乗り鉄だからとか、西島三重子が歌っていたからとか、そういうことではない。
実際に乗ってみると、ちょっと眺めがいいくらいの、ごく普通の鉄道路線だった。まあ、そんなものかと思う。

五反田から山手線で渋谷に出て、ここからは「花心一会」のロケハンだ。
渋谷、表参道あたりは、ヒロインの水無瀬彩花里のホームタウンという設定だ。
ハチ公の銅像の先にあるスクランブル交差点は、作品の第二話で彩花里とあゆが出会った場所だ。さすがに渋谷のど真ん中だけあって、平日の昼間だというのにものすごい人の数だ。

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写真を撮って、スクランブル交差点を渡り、そのまま引き返して渋谷駅前に戻る。これではただの不審者にしか見えないが、小説のロケハンなんだからね、と自分に言い訳をしておく。

メトロ半蔵門線で一駅運ばれて、表参道を歩く。
通りの両側にはこれでもかというほどに、高級ブティックやカフェが建ち並ぶ。
ガラス張りのアーティスティックな建物があるかと思うと、お稲荷さんの小さな社があったり、古臭い校舎の青南小学校があったりして、なかなかに楽しめる。

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緩やかな坂道を登りつめて少し下ると、正面に根津美術館が見えてきた。

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青竹からの葉もれ日がすがすがしい回廊を通って受付をすませ、エントランスに入る。
大きな吹き抜けのエントランスからは、一面のガラス窓の向こうに庭園の豊かな緑が見えた。森の向こうに高層ビルがなければ、ここが東京のど真ん中だとは思えないたたずまいだ。
石仏が並ぶロビーの壁には、「特別展 燕子花図と藤花図」の看板がかかり、「光琳、応挙 美を競う」の文字が躍っていた。

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うすぐらい展示室に入ると、大きなガラスケースの中に、国宝の尾形光琳作「燕子花図屏風」と、重要文化財の丸山応挙作「藤花図屛風」が並べて展示されていた。二つの超弩級の美術品がひと目で見られる、なんとも贅沢な展示だ。

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「燕子花図屏風」は、近くで見てみると繊細さのないべたっとした筆致で、ちょっと意外だった。しかし、少し離れて全体を眺めてみると、この作品の不可思議な魅力に気づく。たゆたうように繰り返される杜若の図柄は、有限の屏風という枠を超えてどこまでも連なり広がっていくように見えた。

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一方の「藤花図屛風」は、離れた位置から見ると上品な屏風絵にしか見えないが、近づいてみると、蔓の一本一本、花の一房一房が、なんとも活き活きとした筆致で描かれているのがわかる。写実的な画風ではないのに、まるで生花のような瑞々しい生命感にあふれていた。

二つの作品に完全にKOされたので、休憩も兼ねて庭園に建つNEZUCAFEで遅めのランチをいただくことにした。
五十席ほどのちいさなカフェだが、三面がガラス張りということもあって、狭さを感じさせない開放感がある。シックな雰囲気の店内は、窓の外に広がる滴るような森の緑に彩られていた。満席の盛況ぶりだが、平日の昼間で子どもがいないせいか、人数のわりに静かな雰囲気だった。

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オーダーした本日のパスタは、ツナとほうれん草とキノコの和風仕立てで、あっさりとした美味しさだった。

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食後にアイスコーヒーをいただいてから、庭園の散策に出かけた。

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根津美術館の庭園は、谷の斜面を利用した和風の池泉回遊式だ。木立の間には、いくつもの茶室が設けられていて、都会の喧騒は遠い。

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谷の底にある池の畔に、この庭園の名物のひとつである杜若の群落があった。すこし時期を過ごしたようで、鮮やかさは失われていたが、まだまだ見頃だ。先ほど観覧した「燕子花図屏風」を思わせる群落に、来訪者たちの多くがカメラを向けていた。

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ゆっくりとすごしたい美術館ではあるが、SKYMARKの遅延のおかげで、すでに時刻は午後四時に近い。短い春の日は、もうすでに傾いてきている。後半もあるので、先を急ぐことにしよう。

メトロ銀座線で渋谷に戻り、京王井の頭線で吉祥寺へ向かう。ここから先は「この星空の向こうに」のロケハンだ。
三鷹、吉祥寺あたりは、ヒロインのひとりである観月詩織が、東京時代をすごす町にしたいと思っている。
吉祥寺のひとつ手前の駅、井の頭公園で電車を降りて、井の頭恩賜公園を散策する。

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公園に入ったところに、神田川の起点があった。御茶ノ水あたりでは堀だかなんだかわからないような神田川だが、起点のこのあたりではちいさくて爽やかなせせらぎだ。

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ボートやスワンの浮かぶ井の頭池の畔をたどって、背の高い木立の下を歩く。春は桜の名所だが、いまは新緑があふれている。

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空には厚い雲が広がってきたが、公園は意外なほどの賑わいだった。下校時刻と重なったようで男女の中高生の姿が目立つが、そんな中でスケッチブックを広げて写生に勤しむ女性がいた。詩織の面影が重なって見えた。

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武蔵野の雑木林の面影をよく残した御殿山をかすめて公園の北西に抜け、吉祥寺通りに出る。

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玉川上水に架かる万介橋を渡って、テニスコートの横を過ぎると、「三鷹の森・ジブリ美術館」に着いた。

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ここも、ずっと来て見たいと思っていたところだが、毎度チケットが取れないで涙をのんできた。今回も急に決まった旅行だったので、チケットは売り切れていたが、せめて外観だけでも見て帰ろうと思う。
門をくぐると、いきなり大きなトトロが出迎えてくれた。そこから、建物をぐるっと回りこむ。

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時刻は午後六時。閉館間際にもかかわらず、敷地の中にはたくさんの人が歩いている。漏れ聞こえる会話から察するに、私と同じようにチケットを手配できないまま雰囲気だけ楽しみに訪れた人々のようだ。

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美術館の建物は、ジブリのアニメから抜け出してきたようなメルヘンチックなもので、外から眺めるだけでもけっこう楽しめた。暮れなずむ空を背景にして立つラピュタのロボットをカメラに収めてから、美術館を後にした。

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時間があれば、このあと三鷹にある国立天文台に足を伸ばすつもりだったが、すでに日は落ちかけている。ロケハンの旅は、三鷹駅で切り上げることにしよう。

バスで運ばれた吉祥寺の駅前は、渋谷といくらも変わらない都会だった。しかし、八王子方面への中央線の電車に乗り込むと、車窓には雑木林と住宅地と農地が入り混じった風景が広がった。
この雰囲気はいいぞと思ったが、三鷹到着を告げるアナウンスが流れるのを待たずに、車窓は夕闇に閉ざされた。
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コメント
584: by つるけいこ on 2014/05/23 at 00:27:53

すっかり東京ツウですね~。
飛行機は不運でしたね! そんなに遅れることがあるなんて驚きです。
東京は公園がいっぱいあってすごいですね。かえって半端な田舎より自然多いんじゃないかと思います。どこかの公園ではカブトムシが捕まえられるとか聞いたし……。
美術館のチケットに売り切れがあるとは知りませんでした! さすがジブリは人気なんですね。
いつもながら詳細な旅レポ楽しませていただきました♪(^○^)

585:新鮮な…… by 八少女 夕 on 2014/05/23 at 02:10:26 (コメント編集)

関西の方にとっては、東京も旅の目的地ですよね。
こういう目で東京を見た事がないのでちょっと新鮮です。
池上線とか渋谷とかものすごい地元でして。
「なぜあれをわざわざ観に行く」みたいな(笑)

しかし、この行程、まさか一日で?
殺人的スケジュールのように思われますが。

586:Re: タイトルなし by TOM-F@管理人 on 2014/05/23 at 19:06:44 (コメント編集)

> つるけいこ さん

いえいえ~、けっこう行っているように見えて、じつは少ないんですよ。
飛行機は、わりと今まで遅延とかなかったので、びっくりしました。でも、着陸待ちで千葉市の上空をぐるぐる旋回するとか、それなりには面白かったですけどね。

東京の公園(緑)の多さは、ホント、意外です。しかも、ひとつひとつの公園がでっかい。そこだけ見ると、都心とは思えないです。

ジブリ美術館は、入場者をコントロールするために、入場時間指定になっているんですよ。入っちゃえば、閉館まで中にいていいみたいなんですけど、その指定券がなかなか手に入りません(泣)
いつか行ってやるぞ~。

コメント、ありがとうございました。

587:Re: 新鮮な…… by TOM-F@管理人 on 2014/05/23 at 19:23:45 (コメント編集)

> 八少女夕さん

そうなんです、東京という場所そのものが旅行の目的地になっちゃうんですよね。
在住の方には日常的なものでも、観光資源としての価値があったりするわけです。渋谷の雑踏なんて、毎日通勤や通学している人から見たらなんてこともない光景なんでしょうけど、それが小説の舞台になっちゃうところが、東京という町の持つ価値なのかなと思います。私の地元の「●●駅前の交差点」と書いても誰もピンとこないでしょうけど、「渋谷駅前のスクランブル交差点」と書けばそれだけで読者さんに共通したイメージができちゃいますよね。これ、すごいです。

はい、一日というか、ほぼ半日で回りました。もうちょっと、ゆっくりできればよかったんですけどね。仕事の合間になんとか作った時間だったので、まあ、こんなものかなぁと。

コメント、ありがとうございました。

588: by ゆさ on 2014/05/25 at 21:42:11

いらっしゃいませ関東~(´▽`)☆

スクランブル交差点はいつ行っても混んでますねえ。
歩行者信号が青に変わった時の、一斉にぐわっと動き出す群衆にいつもぞわっとします。
渋谷の駅前で写真を撮る人はたくさんいるので、別に不審者には見えないと思いますよ。

根津美術館に行かれたのですね!
光琳の燕子花図、面白いですよね。だいだい今の時期に展示されることが多いんですよ~お庭の杜若と合わせて楽しめるってことで。
光琳はデザイン系の人なので、割とベタ塗りの絵が多いです。同じ琳派の宗達や抱一もそんな感じですね。
逆に応挙先生はとても丁寧に細かく描く写実画家ですね。派手じゃないけどきれい。

井の頭公園は今の季節が一番気持ちよく過ごせると思います~。
緑がとても綺麗ですよね☆
ジブ美チケット、残念でしたね。土日分はあっという間に完売しちゃうんですよね…平日の夕方分とかなら、前日でも買えることあるんですけど。
懲りずにまたチャレンジしてくださいね。

日帰り旅行おつかれさまでした~。
よい天気だったようで何よりです!(´▽`)

589:いいなぁ~ by 山西 サキ on 2014/05/25 at 21:44:19 (コメント編集)

根津美術館の回廊、素敵ですね。
サキは建築物に興味がありますから、ここには前から関心がありました。
あ、収蔵されている美術品にももちろん興味はありますが、一番は建物です。
この和風の空間、心が何か落ち着きますよね。
屋根は瓦だし、光の取り入れ方とかも和風テイストのこの建物、見てみたいですよ。とても考えられた設計ですよね。

ジブリ美術館も行ってみたいですね。
サキは宮崎駿のファンですから。
実は“先”もかなり古くからの宮崎駿ファンでとても行ってみたいようなんですよ。
「太陽の王子・ホルスの大冒険」あたりからずっと宮崎駿を追いかけているようで、古参のファンと言っても過言ではないでしょう。
この作品、サキもビデオを何回も見せられて「シスカ」のベースになっているのかもしれないほどなんです。
興行的にも大失敗で、とても不完全な作品ですが、エネルギーだけは感じます。「ゲド戦記」を見て、あ!これはあのシーンのイメージそのまま?と思ったりしたのは内緒です。
仄暗さ、この辺から出てきているかもです。
ぜひ行ってみたいですね。
お疲れ様でした。

590: by 大海彩洋 on 2014/05/25 at 23:29:55 (コメント編集)

ロケハン、私もよくやります^m^
友人と新宿をうろついてみたり(でも、夜だと怖いので、朝うろうろ……)、キャラたちがよく行く店はここらだな、真の事務所はここ、とか決めたり^m^
そんな感じで、ロケハンをすでに5回近くやっています。東京の町って、駅ごとに違う顔があって、面白いですよね。イメージに合った場所がどこかにある……
私たちも、早朝の新宿2丁目をうろつく女2人、って結構怪しいことがあったり^^; ま、ロケハンだから、と私もいいことにしています。

根津美術館、いいですね。私も好きです。建物がお洒落だし。
東京って、こんな風に素敵な(広い)場所が唐突にあって、結構緑も多くて、その公園からビルが見えて、って不思議な世界なんですよね。
……にしてもTOM-Fさん、本当にいつも小トリップ、楽しまれていますねぇ(*^_^*)
最近小トリップしてないなぁ。今週末は東京だけれど、缶詰だし……(-"-)
また次の旅行記事、楽しみにしています(^^)

592:Re: タイトルなし by TOM-F@管理人 on 2014/05/26 at 19:21:59

> ゆささん

お邪魔しました~(笑)
東京に行っていつも思うのが、なんでこんなに人が多いんだろう、ですね。平日の真昼間なのに、渋谷の交差点とか普通に歩いていると人にぶつかりそうになりますからね。
『光琳はデザイン系』なるほど、その通りですね。そう言われてみれば「燕子花図」の不思議な魅力も理解できます。応挙の「藤花図」は、写真ではわからないけどほんとに生きた花みたいで感動しました。庭の杜若もいい雰囲気だったし、根津美術館、すごく気に入りました。

井の頭公園の新緑、すごく気持ちよかったです。時間があったら、ボートに乗ってみたかった。
ジブ美はなぜか縁がなく、東京に行っても立ち寄る時間がなかったり、今回みたいに時間が合ってもチケットがなかったりです。はい、懲りずにまたチャレンジします。

コメント、ありがとうございました。

593:Re: いいなぁ~ by TOM-F@管理人 on 2014/05/26 at 19:36:33

> 山西サキさん

根津美術館は、いきなりあの回廊の雰囲気で別世界にトリップ、ですよ。日本建築のエッセンスをふんだんに生かした、贅沢な造りの建築だと思います。東京のど真ん中ですからね、あそこ。
かたやジブリ美術館は、まさに絵本あるはアニメのワンシーンを切り取ったような建物でした。ジブリというか宮崎駿アニメのファンなら、朝から晩までいても楽しいんじゃないかと思います。あ~あ、中に入りたかったなぁ。
お、先さんも宮崎駿アニメのファンでいらっしゃるんですね。「太陽の王子・ホルスの大冒険」名前は聞いたことありますが、残念ながら未見です。私は「カリオストロの城」から「紅の豚」くらいまでのファンですので、そんなにコアなファンじゃないんですけどね。ほんとうにいい映画を作っていると思います。エネルギーに満ちた作品に触れると、多かれ少なかれ影響は受けますよね。
事前にチケットを用意して、ぜひお出かけ下さい。私もまたいつか、リベンジしますので。

コメント、ありがとうございました。

594:Re: あ by TOM-F@管理人 on 2014/05/26 at 19:46:58

> 大海彩洋さん

ロケハン、楽しいですよね。
べつにそこに行かなくたって書こうと思えば書けるんですけど、やはり現地の空気みたいなものに触れるのとそうでないのとでは、ちょっと違うんですよね。
東京って、ほんとうにいろんな顔がありますね。古いもの、新しいもの、穢いもの、綺麗なもの。そういうものがごちゃ混ぜになっていて、面白いです。

根津美術館は、今回の旅行でのいちばんの発見です。
ロケーションも、建物も、収蔵品も、お庭も良かった~。そうそう、お庭の木の間ごしにビルが見えているの、あれも東京らしい感じがしましたね。

今回も仕事の出張ついででちょっと時間がとれたので、小トリップを楽しませてもらいました(会社にはナイショ)会社勤めだと、あんな感じで楽しまないとなかなか旅行とかいけませんよね。大海彩洋さんの旅行は、目的も内容もすごく深いので、いつも感心しています。また素敵な紀行を読ませて下さいね。

コメント、ありがとうございました。

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