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ヴァレ・ドゥ・ラムール

昨今、放射能というと、どうも悪いイメージが定着しているように思う。
しかしながら、微量の放射能を含む温泉が、健康に良いことも広く知られている。その放射能温泉の代表格が、鳥取県中部にある三朝温泉だ。
TOM-Fは、無類の温泉好きなので(我ながら、好きなものが多いような気がする)、一度は浸かってみたいと思っていた三朝温泉だったが、このたびようやく訪問する機会が訪れた。

三朝温泉の最寄駅である倉吉までは、特急列車「スーパーはくと」を利用することにした。
「スーパーはくと」は、JR西日本の京都駅から、山陽本線、智頭急行線、山陰本線を直通するディーゼル特急だ。

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かっこいいデザインの車両で、倉吉に向かう下りでは最後尾、京都に向かう上りでは最前部が展望車になっていることで有名でもある。
今回の旅行では、往復利用になるので、もちろんその展望車を予約した。しかも、帰りは最前列の席を確保することができた。出かける前から、縁起がいい。

旅行当日は、あいにくの雨模様だった。
天気予報によると、翌日にかけて鳥取では雨から大雪になるということだった。冬の旅だから雪が降るのは風情があって良いくらいだが、交通が麻痺するかもしれない、などとアナウンサーが脅すので、さては列車の予約で運を使い果たしたかと心配になった。
やきもきしながら、ディーゼルカーとは思えないほどの速度で走行する「スーパーはくと」にゆられていると、案の定、山間部で大雪になった。しかし、倉吉に着く頃には雨模様になり、積雪もなくなっていた。この分なら、雪に閉じ込められる心配はなさそうだ。

倉吉駅から、旅館の送迎用マイクロバスに乗り込む。
付近には観光名所もあるが、今回の目的は三朝温泉を堪能することだから、さっさと宿に向うことにした。
走ること二十分あまりで、バスは三朝温泉街に入り、宿に横付けされた。
今回お世話になるのは、温泉街の最深部に建つ「依山楼岩崎」だ。

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ラウンジでウエルカムドリンクを頂いた後に通された和室は、三徳川の清流を見下ろし、雨にけぶる温泉街を一望にする眺めのよい部屋だった。

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冬の日は短いから、暮れる前に温泉街を散策しておこうと思う。せっかくだから浴衣に下駄履きでそぞろ歩きを楽しみたいところだが、小雨がみぞれに変わりそうな寒さである。風邪を引いてもつまらないので、旅装のままで出かけることにした。

三徳川にかかる三朝橋を渡ると、橋のたもとには「河原風呂」がある。文字通り河原にある混浴の露天風呂で、無料で入ることができる。だが、この寒空に入浴をするつわものもおらず、大きな湯船から湯けむりだけが夕空に立ちのぼっていた。

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三朝橋のたもとから、石畳の温泉本通りを歩く。
狭い道の両側には、温泉宿や飲食店、土産物屋、古美術店、スナックなどが並び、温泉町の情緒が漂う。
だが、どうしたことか、観光客の姿がまったくない。店もほとんどが閉まっていて、さびしい限りだ。ふと覗いた古美術店の奥には、初老の店主が骨董品のように鎮座していた。隣の射的場から聞こえるポンという空気鉄砲の音だけが、通りに響いていた。

少し時間が早すぎたのだろうと、気を取り直して先に進むと、小さな広場に建つ薬師堂があった。三朝温泉は、効能の良さから湯治場としても知られていて、このお薬師様も温泉街の仏様として親しまれているらしい。
お堂の横には無料の足湯があって、若い女性の三人組が楽しそうに湯を使っていた。彼女たちのカラフルな浴衣とお湯の中で揺れ動く白い足が、薄暗くなりはじめた辺りから浮かび上がって見えた。

足湯からさらに歩を進めると、温泉街が尽きて、三徳川にかかる大きな橋に出る。映画のタイトルになったことで有名な恋谷橋だ。
ときのフランス大使が「ヴァレ・ドゥ・ラムール」と呼んだというこの橋の中ほどには、三徳川の名物であるカジカガエルの陶製の像がある。恋人を思いながらこのカジカガエル像に触れると恋が実ると言われているとかで、像の近くには恥ずかしい言葉が書かれた絵馬が大量に奉納されていた。
記念撮影用の東屋がある橋の上からは、清冽な三徳川の両側に大小の温泉宿が立ち並ぶ三朝温泉が見渡せる。低い曇天の下、ぽつりぽつりと灯りはじめる明かりを見ていると、旅情のようなものがこみあげてきた。

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宿に戻り、ようやく温泉に浸かる。
「依山楼岩崎」には、回遊式大庭園風呂と称する広大な浴場が設えられている。檜の湯船や岩石を配した湯船など、趣向を凝らした風呂めぐりは楽しくて、温泉を堪能できた。体の芯から温まる効果も強いようで、湯から上がっても長い間ぽかぽかとしていた。

休み処で、さっぱりとしたレモン味の「愛玉ゼリー」をいただいて、いよいよ夕食だ。
部屋に戻って待つこと数分、テーブルに並んだ夕食は、ズワイ蟹の刺身、焼蟹、天ぷらと、大山牛の温泉豆乳鍋をメインにした会席だった。蟹は、予算の関係でタグ付きの松葉蟹ではなかったが、一人あたり一杯くらい使われていて、じゅうぶんに美味しかった。

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翌日は少し早起きして、もう一度大浴場に浸かる。
昨夜とは男女が入替わっているので、趣の違うお風呂を楽しむことが出来た。朝風呂にのんびりと浸かるのは、やはり温泉旅行の醍醐味だと思う。

宿から倉吉駅まで、送迎のマイクロバスで運ばれる。運転手は、バスガイドよろしく、地元出身の有名人を次々に紹介してくれる。倉吉周辺から始まった出身者紹介は、駅に着く頃には米子市や鳥取市にまで及んでいた。

あとは「スーパーはくと」の展望車を楽しみながら帰宅するだけなのだが、列車の発車時刻まで二時間ほどある。せっかくここまで出向いてきたのだから、少しは観光をして帰ろうと思う。
倉吉駅から二時間ほどで行ってこられる場所となると、市内の白壁土蔵群か、町外れにある中国庭園「燕趙園」くらいだ。じつはどちらにも行ったことがあるのだが、ここは同行者の意見をいれて、「燕趙園」に出かけることにした。

駅前からタクシーで約15分ほど走ると、東郷湖の辺にある「燕趙園」に着いた。
以前に来たときにはそこそこ賑わっていた記憶があるが、今日は生憎の小雨のせいか閑散としていた。
派手な楼閣が立ち並び、築山や苑池を配した中国庭園は見事なものだが、真冬なので庭園を彩るはずの草木にも緑はなく、全体に寒々としている。庭園の借景のひとつである東郷湖は、周囲に東郷温泉と羽合温泉を持つ生ぬるい湖なのだが、湖面を渡ってくる風は冷たかった。

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倉吉駅に戻り、昼食用の駅弁を購入してから、京都行きの「スーパーはくと」に乗り込む。天候を犠牲にして手に入れた、最前列の展望席からの眺めは、実に愉快であった。

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しかし、思いがけないことからはじまったアニメ談義に花を咲かせすぎて、気がついたらもう下車駅が近づいていた。
アニメおたくとしては充実した時間であったが、鉄道おたくとしては不満の残る結果となった。
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コメント
488:温泉いいですな by miss.key on 2014/02/05 at 20:17:31 (コメント編集)

 こんにちは。
 温泉いいですな。わたし、此の前仕事で伊東に行ってきました。深夜1時に茨城県を出発。朝5時半に到着。が、温泉につかる事無くその儘とんぼ返り・・・orz
仕事とは言えあんまりだぁぁぁぁ(TへT)

489:Re: 温泉いいですな by TOM-F@管理人 on 2014/02/06 at 19:24:09

> miss.key さん

そうですね、とくに冬は温泉でほっこり、のんびりしたいところですが、そうもいかないのが現実で……。
それにしても、茨城県から伊東まで行ってトンボ帰りは、さすがにキツイですよね。うう、社会人は辛いです。

コメント、ありがとうございました。

490:温泉いいなあ by 八少女 夕 on 2014/02/07 at 05:07:50 (コメント編集)

やっぱり一度浸かるだけじゃもったいないですよね。
チェックインしたら入浴。寝る前にも入浴。そして朝風呂も外せない〜。

TOM-Fさんの旅と言ったら、グルメ記事な私ですが、今回も美味しそう。カニづくしに、牛肉ですか〜。いいなあ、いいなあ。

せっかくの指定席でしたが、アニメオタクさまとの邂逅も一期一会。楽しい時間を過ごせたということでよかったのでしょうね。次回の旅日記も楽しみにいたしております。

491:Re: 温泉いいなあ by TOM-F@管理人 on 2014/02/07 at 19:36:45

> 八少女夕さん

そうなんですよね、どこの温泉に行っても、たいてい旅館の人は「三回は入浴してくださいね」なんて言ってますからね。
カニはほんとうに贅沢な食材でして、地元に揚がったタグ付きをいただこうと思ったら、一人三万円くらいいるんですよ。もう、絶対にムリって感じです。
鉄道オタとアニメオタ、不倶戴天というわけでもないんですけど、どちらも語り出すと止まらないようで(笑)
まあ、楽しい時間ではあったんですけどね。

コメント、ありがとうございました。

P.S.アルファポリスの件は、お気になさらないでくださいね。いずれにしても、後ろから数えた方が早いくらいの得点でしたので(笑)

492:久しぶりに by 大海彩洋 on 2014/02/09 at 11:22:19 (コメント編集)

TOM-Fさんの旅行記、嬉しいです(*^_^*)
これはまさに、温泉のための旅行だったのですね。こういうもう「温泉につかるぞ」「○○を食べるぞ」という目的のはっきりした旅行の在り方、好きです。
温泉街って独特の雰囲気でそぞろ歩きにいいですよね。でも、結構旅館の中だけで満足しちゃうのだけど……
鉄道の旅行、新幹線以外に乗ることが少ないので、ちょっとこういうのもいいなぁと思いました。神戸からだと、鳥取・島根は結構行くことがあるのですけれど、ついつい車です。
今度、列車で行ってみようかなぁ。

493:Re: 久しぶりに by TOM-F@管理人 on 2014/02/10 at 18:25:23

> 大海彩洋 さん

今回は、温泉に入るのが目的でしたね。冬場だし、あまり観光できるところもなかったので。
でも、三朝温泉をゆっくりと楽しめたと思っています。温泉といっても、いつも夜に着いて泊まって朝出発、という慌しいパターンが多いので、いろいろと新鮮でした。
今回の旅館も大型で施設が充実していたので、旅館の中だけでも十分満足できちゃいそうでしたけど、温泉街のそぞろ歩きはやはり楽しかったですよ。
ローカル線の列車、特急もいいですけど、鈍行(各駅停車)も味があっていいものです。時間が許すのであれば、おすすめしたいですね。

コメント、ありがとうございました。

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