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言の葉の庭

 今年は空梅雨かと思っていたら、ここにきて急に雨の日が多くなった。
 ようやく、梅雨らしくなってきたな、という感じだ。
 そんな雨の日にうってつけの映画を観て来た。

 新海誠の最新作「言の葉の庭」だ。

 この人の手にかかると、ありふれた日常が、息を飲むような美しいシーンに変わる。
 今回は、雨がテーマだ。
 靴職人を目指しながらも前途に迷う高校生の少年と、人生の歩き方を忘れてしまった大人の女性、まるで人生の雨宿りをしているかのような二人に降り注ぐ、さまざまな雨。
 それは、しとしとと降る梅雨であり、雷とともに訪れる夏の夕立であり、しのつくような驟雨である。都会のゲリラ豪雨ですら、目を奪われるような印象的なシーンになっている。なかでも、作品の前半で描かれる新宿御苑に降る緑雨の美しさは、筆舌に尽くしがたかった。
 わずか数秒の映像に、いったいどれだけの手間と時間と情熱が注がれているか。その美しさと情報量に、圧倒され続ける快感。この映像の魔法を見たくて、私は新海誠の映画を観るのだと、そのときわかった気がした……。
 アニメーションに関しては、少なくとも私の好みで言えば、文句のつけようがない。ただ見ているだけで幸せになれる映像があるのだと、実感させてくれる。

 音楽は、今回はいつもの天門ではなかったが、ピアノの響きを大切にした繊細な音作りで、エンディング曲の「Rain」ともども、作品によく合っていたように思う。

 シナリオとストーリーの評価は、残念ながらすこし落ちる。
 迷いながら何かを探し続ける人々の、一瞬を切り取ったようなストーリー自体は、悪いものではない。
 前半の、雨の新宿御苑で主人公たちがすこしずつ思いを交わしていく描写は、その繊細さと映像美が見事に相乗効果を発揮している。だが、後半のいささか駆け足気味のドラマティックな展開は、せっかくの前半の静かで叙情的な雰囲気を壊してしまっている。
 ラストシーンは、予感と余韻とともに解釈の幅を残した味わい深いものだったが、短い作品に無理をしていろんな要素を詰め込みすぎたのではないかと思う。もうすこし、尺を長くしても良かったかもしれない。映画としての面白さを追うことを否定はしないが、そろそろ新海誠の映像と親和性の高いシナリオライターを探す必要があると感じた。

 上映時間46分の短い映画だが、新海誠の真価をいかんなく発揮した映像美と音楽、そして甘めのラブストーリーという純度と糖度の高い佳作だった。
 上映館が少ないのが難点だが、梅雨が明ける前に見に行かれることをお勧めする。この映画を観れば、鬱陶しいはずの雨の日が、まるでモネの睡蓮の絵のように美しく見えることだろう。

 『言の葉の庭』予告編
  
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コメント
281:こんばんは~ by 山西 左紀 on 2013/06/27 at 21:50:25 (コメント編集)

あれ?金麦なんだ!
予告編のレベルの高さに圧倒されます。(予告編だからかもしれませんが)
これはちょっと観てみたいです。BLかDVDは発売されるのかな?
買っちゃいそうです。
こういう作品が制作できて、そして少ないとはいえ映画館で上映できる。そして見に行ってみようと考える人々が居る。
あとは元が取れるだけで良いんですけど、そうすればまた次の作品を見ることが出来ますから。
結構裾野の広い国ですネ。日本って。

サキ

282: by TOM-F@管理人 on 2013/06/28 at 11:02:38

> 山西左紀さん

 サキさん、コメントありがとうございます。

 金麦に限らず、いろいろと「実物」が出てきましたよ。
 ロケ地の新宿御苑はアルコール禁止だそうで、エンディングテロップでそんなご注意が流れてました(笑)
 この映画に関して言えば、予告編より本編の方が圧倒的にハイクオリティです(キリッ)あれ以上の映像が、一瞬の緩みもなく46分間続きます。もう、尋常ではなく、狂気の沙汰ですね、あれは(笑)
 現在上映中ですので、BDやDVDが出るのは、まだ先になると思います。劇場ではBDを売っていましたけど。

 新海誠は、いままで「知る人ぞ知る」というアニメ映画監督でしたが、「言の葉の庭」はマスコミにも大きく取り上げられたし、内容もわかりやすくなっていたので、かなり一般化したように思います。作品の純度の高さでは、「秒速5センチメートル」がダントツです。

 そうですね、日本ではアニメ作品でも一定の評価はつきますからね。ですが、新海誠の作品は、アニメというジャンルを越えた映像詩として見ています。短くても、不評でもいいから、これからも純度の高い作品を作り続けてほしいクリエイターの一人です。

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