RSS

長崎、さるく (前編)

 春、恒例のお出かけは、長崎にした。
 暖かな異国の風に吹かれて、のんびりと街を散策しようと思う。

 お気に入りの九州新幹線「さくら541号」を博多駅で降りて、鹿児島本線から長崎本線を経由する特急「かもめ17号」に乗り換える。
 JR九州の列車は、ヨーロッパの鉄道車両を思わせるセンスのいいデザインの車両が多いが、この885系「かもめ」はその最たるものだろう。

    130417-01.jpg  130417-02.jpg

 内装は曲線を基調としたもので、キャビンは革張りの豪華なシートが並ぶ。格納式の荷物入れが、航空機のようだ。

    130417-03.jpg  130417-04.jpg

 定刻に博多を発した「かもめ」は、すべるように走って鳥栖から長崎本線に入る。
 しばらく走ると、左窓に有明海が広がった。
 世界でも有数の干潟が有名な有明海だが、今は満潮でうすぼんやりと広がる海原を、春の陽光が照らしていた。
 長崎が近づくと、女性車掌が観光案内を始めた。さすがに観光都市だけのことはあるし、JRのサービスもここまできたかと思う。お昼に「トルコライス」はいかがですか、と締めくくられた案内を聞き終えると、終点長崎だった。

 時刻は13時前で、お腹がいい具合に空いている。
 車掌推薦の「トルコライス」を食べようと思って、ガイドブックをめくり、一軒のレストランに当たりを付ける。
 駅前から、長崎電気軌道のレトロな路面電車に乗り込む。
 思案橋で電車を降りて、迷いながらたどり着いたのは「ビストロ・ボルドー」。雑居ビルの二階にある小さな洋食屋さんだが、ここが「トルコライス」発祥の地である。

    130417-05.jpg

「トルコライス」を注文すると、カレーピラフ、トンカツ、そしてナポリタンスパゲティが盛りあわされた一皿が出てきた。なんともつかみどころのない料理だが、口に運ぶと、一品一品がきちんと仕上げられていることがわかる。カレーピラフはスパイシーでパラパラしているし、スパゲティの味付けも安っぽくない。なにより、豚肉の香りと甘みがしっかり感じられるトンカツが絶品だった。

 再び路面電車に乗り、築町で降りる。
 川沿いに少し歩くと、新地中華街の入り口に立つ楼門が見えてきた。

    130417-06.jpg

 横浜、神戸と並ぶ中華街だが、長崎のものは三つのなかでいちばん規模が小さい。神戸の中華街、南京町も小さいが、ここ新地中華街は雰囲気を楽しむ前に尽きてしまった。

 今夜の宿、ホテルJALシティ長崎は、中華街のすぐ横という絶妙の立地だ。まだ日は高いが、チェックインして荷物を下ろす。

 身軽になって、散策再開だ。
 かすかな潮の香りのなか、中華街から港に向けて五分ほど歩くと、出島に着く。

    130417-11.jpg

 今はビル街と中島川に挟まれた場所だが、ビル街のある場所はかつては海だった。
 出島は、面積約1.5ヘクタールの扇型の人工島で、江戸時代にポルトガル人の収容所として作られ、鎖国政策の間は、唯一交易が認められていたオランダとの交易が行われた場所であるとともに、オランダ人たちの居住地でもあった。
 現在では、護岸が修復されたり、オランダ商館や倉庫などが再現(再建)されて資料館になっていたりと、観光地としても一見の価値がある。
 さて、この出島、明らかに徳川幕府の施設であるのに、驚いたことに長崎在住の二十五人の出資者によって建造された、民営の収益物件なのである。店子であるオランダ商館などからは、現在の金額に換算すると年間一億円にもなる「賃料」が、出資者たちに支払われていたらしい。
 オランダ船が来航すると交易で繁忙する出島だが、そうでないときは暇を持て余していたようだ。出島に暮らすオランダ人たちは、ビリヤードやバトミントンに興じて暇をつぶしていたという。またオランダ商館では、商館長(カピタン)主催のホームパーティも行われ、出島に詰めていた幕府の役人たちとも友好な関係を築いていたという。

    130417-07.jpg

 出島は、関係者以外は出入り禁止だったが、唯一、長崎の遊女だけは自由に出入りができたという。商館員たちは単身赴任しか認められていなかったので、いろいろとロマンスもあったことだろう。

 たっぷりと時間をかけて出島見物を堪能したあとは、長崎港ベイサイドにある出島ワーフを訪れた。
 西に傾きかかった太陽が、凪いだ長崎湾を鈍く輝かせる。
 潮風を受けて散歩したあと、カフェ「Attic(アティック)」でコーヒーブレイクにした。ガラス越しに長崎湾を望む席で、いただいたのはこれ。

    130417-08.jpg

 坂本龍馬を描いたカプチーノだ。他にも、岩崎弥太郎、シーボルト、グラバーを描いたものもあった。

 舌と目を楽しませてもらったあと、店を出ると、時刻は18時になっていた。
 まだ空は明るいし、遅めの昼食だったこともあり、それほどお腹が空いていない。夕食は、長崎名物の卓袱料理を予定しているが、もうすこしお腹を空かせておきたい。
 すこし散歩しようと思い、唐人屋敷跡に行ってみることにした。出島ワーフから、山手に向って歩くこと十分ほど、緩やかな坂道を上ったところが唐人屋敷跡だった。
 かつて、唐人(中国人)のための「出島」とも言うべき唐人屋敷があった場所だが、今はごく普通の町並みに埋もれるように、四つの堂宇が残るだけで、かつての面影は偲びにくい。

    130417-09.jpg

 閉まりかけた門をわざわざ開けてくれたおじさんにお礼を告げて、福建会館を見物し、細い坂道をたどって土神堂、天后堂、観音堂を見物する。
 堅く閉ざされた観音堂の門前に、グレーの毛並みのネコが座っていた。このちいさな門番は、近づいてカメラを向けた私を金色の瞳でひと睨みし、面倒くさそうに欠伸をひとつした。

    130417-10.jpg

 近くの公園でバトミントンに興じる女の子たちの元気な声が、暮れなずむ唐人屋敷跡の坂道を這い登ってきた。

(来週の後編に続く)
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
196: by つるけいこ on 2013/04/18 at 00:10:12 (コメント編集)

TOM-Fさんは旅行記を書くのが本当にお上手ですね!
子細な解説と情緒ある文章が上手く込められていて、読んでいてわくわくしました。

198: by 大海彩洋 on 2013/04/18 at 08:02:20 (コメント編集)

長崎……いいですね!
九州大好きな私ですが近年、熊本~宮崎に嵌っていて、毎年長崎も検討項目に入るのに、もう何十年か前に行ったきりです。
この坂本龍馬のカプチーノ、いいですね!
TOM-Fさんの旅行記を見たら、次回は長崎もまた検討しよう!と思いました…あ、その前に後篇も楽しみにしています(*^_^*)

199:Re: タイトルなし by TOM-F@管理人 on 2013/04/18 at 18:16:58

> つるけいこさん

わぁ、ありがとうございます。
旅行記は書くのも読むのも好きなジャンルなので、つい力が入ってしまいます。
楽しんでいただけたようで、とても嬉しいです。

来週、後半を書きますので、また読んでくださいね(ちゃっかり宣伝)

コメント、ありがとうございました。

200:Re: タイトルなし by TOM-F@管理人 on 2013/04/18 at 18:24:42

> 大海彩洋さん

はじめまして、ようこそ Court Cafe へ。

コメント、ありがとうございます。
九州って、旅行するの結構楽しいですよね。熊本や宮崎は、私も好きなエリアです。
長崎は、なぜか縁があるようで、すでに何回か訪れています。でも、毎回、新しい発見があります。

カプチーノは、他にも岩崎弥太郎やグラバーやシーボルトのもありましたよ。ちなみに、一杯380円でした。

> TOM-Fさんの旅行記を見たら、次回は長崎もまた検討しよう!と思いました

長崎観光協会あたりから、表彰でもしてくれないかな(笑)
来週の後半も、よろしくお願いします。

201: by 八少女 夕 on 2013/04/19 at 03:16:26 (コメント編集)

う〜んと、「トルコライス」は、どこが「トルコ」なのかな?
わからないけれど、美味しそうです。

長崎は、一度行ったのですが、今回紹介されている所はほとんど行っていない! まあ、案内してくれたのがカトリックのブラザーさんだったので、出島や中華街は省略されちゃったんでしょうね。

う〜ん。日本も行きたい所いっぱいあるなあ。龍馬のカプチーノ、すごい!

後半も楽しみにしています。

202:Re: タイトルなし by TOM-F@管理人 on 2013/04/19 at 17:56:18

> 八少女夕さん

 トルコライスの名前の起源は、諸説あるようですね。たしかに、なんで「トルコ」って思いました(笑)
 命名センスはともかく、おいしかったですよ~。

 長崎は、歩くのが楽しい町ですね。有名な観光名所がコンパクトにまとまっているので、歩いて回りやすいですし。
 龍馬のカプチーノは、芸術品でしたね。絵を崩さずに飲むのが、ちょっと楽しかったです。

 後半、お楽しみに。

 コメント、ありがとうございました。

▼このエントリーにコメントを残す

   

ようこそ

オーナー

TOM-F

Author:TOM-F
 
 ようこそ、Court Cafe へ。

 自作小説をメインに、アニメや旅行記など趣味のお話を綴っています。
 楽しいひとときを、おすごしください。

作品

FEOバナー

花心一会バナー

あの星バナー

妹背の桜バナー

記事

コメント

ブロとも

ブロとも申請

リンク

外部リンク