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INNOCENCE

『イノセンス』は、今を遡ること9年前の2004年に公開された、押井守監督の劇場用アニメーション映画だ。
 士郎正宗が原作を書いた「攻殻機動隊」シリーズの一品で、1995年に公開され話題を呼んだ『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の続編という位置づけだ。

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 作品の舞台は、近未来の2032年。生身の脳を残しながらも一部をコンピュータ化した「電脳」という頭脳と、「擬体」というサイボーグの身体を持つ人間が普通に生活をしている時代が背景になっている。
 ストーリーは、少女型の愛玩用アンドロイドが起こした所有者惨殺事件を、特殊な警察組織に属する二人の刑事が捜査するというものだ。

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 さて、最初に書いておかなければならないが、この作品は観る人を選ぶ。アニメ映画を娯楽ととらえて楽しみたい人には、まったくお勧めできない。後ほど詳しく書くが、一度の鑑賞では、この作品でなにが描かれ、なにが語られているのか、ほとんど理解できないからだ。数回以上の鑑賞が必要な作品であり、画面に目を凝らし、セリフに耳をそばだてて、少しずつ理解を深めていくことを求められる。

 さて、前置きはこのくらいにして、本題に入ろう。

 この作品で注目されるべきは、まずそのアニメーション技法のレベルの高さだ。これはもう文句なしの超一級品で、公開から9年を経た今でも、これを超える作品はないだろう。
 そのクオリティの高さは、冒頭の数分を見ただけで十分にわかる。
 高層建築群を背景にして飛行する偵察用ヘリ、装甲車から降り立つ機動隊、クラッシクカーで人ごみを掻き分けるようにして現場に到着する主人公。

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 導入部のシーンだけでも、息を飲むほどの出来栄えだ。そして、作品のラストシーンに到るまで、これでもかというほどに押し寄せる映像の情報量に圧倒され続けることになる。

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 これを作り上げたアニメーターたちの力量は、半端ではない。ジャパニーズ・プレシジョン・アニメーションの最高峰にして、おそらく世界でも類を見ないものだろう。

 音楽も、極めてユニークだ。作品は、SF色の強い内容だが、音楽は、日本の民謡をモチーフにした多重録音の女声コーラスが多用される。また、ジャズの挿入歌やオルゴールの音楽も、印象的に使われている。なかでも、エンディングテーマに使われている伊藤君子の「フォロー・ミー」は絶品で、聞き惚れてしまう。

 シナリオの出来は、残念ながらそれほどのものではない。
 本作のシナリオは、刑事である主人公が、事件の捜査をし、妨害やピンチを乗り切って事件を解決するというストーリーで、それ自体は破綻せずに完結している。しかし、それは作品のテーマを描いているわけではないのである。

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 本作のテーマは、ヴィリエ・ド・リラダンの『未来のイヴ』に影響を受けた、「身体と心とはなにか」「人間は身体によって生きているのか、心によって生きているのか」という深遠な内容だが、それがストーリーによって描かれずに、登場人物たちの言葉によって語られる、という作りになっているのだ。
 これは、押井守の特徴的な手法だが、テーマとして語られている内容と、作中で主人公たちがやっていることが微妙に一致しないため、見終わった後に違和感というか疑問が残るのだ。もっとも、それこそが、繰り返して鑑賞するためのモチベーションにもなっているのだが。

 もうひとつ、この作品を語る上で欠かせないのが、量的にも質的にも異様なほどに詰め込まれた「引用」の数々である。主人公たちは勿論のこと、ちょっとした端役ですら、普段は耳にもしないような高尚な文章をセリフの中で引用する。
 あまりにも量が多いのでここでは引き合いに出さないが、ともかくセリフの七割は引用だと言ってもいいくらいだ。その内容は、低年齢層には到底理解できないようなものばかりであり、この作品の哲学的で難解な印象を、さらに増長させている。

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 この作品、とにもかくにも、鑑賞者に対して、まったく媚びていない。ある意味、独善的ですらある。だが、その潔さは見事なもので、最初に述べたように何度も繰り返して鑑賞しながら、作品に込められたメッセージを紐解いていける人のみが登頂を許された、孤高の名峰のごとき存在だと言える。
 アニメーション好きを名乗るなら、その試金石となる作品でもあるだろう。
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コメント
184: by 山西 左紀 on 2013/03/22 at 22:02:03 (コメント編集)

TOM-Fさんの語り口は素敵です。
まあ、それはさておいて、サキは「攻殻機動隊」のファンです。
もちろん相方の影響によるものなんですけど、あの独特の世界観、緻密な設定、大好きです。
サキの物語のお手本にしたいところなんですが、とてもとても……。
『イノセンス』も『GHOST IN THE SHELL』も大好きで何度も見ました。
本当に何回か見ないと世界観などは理解できないと思います。
「攻殻機動隊」シリーズも2nd.GIGまでDVDをレンタルしてみんな見てしまいました。
クールだし、こういうの、なんだか素敵です。
TOM-Fさんの深い考察にはとてもかないませんが、なんとなく自分と同じ臭いを感じてしまいます。
あぁ、調子に乗って喋り過ぎてしまいました。
失礼しました。

185:Re: タイトルなし by TOM-F@管理人 on 2013/03/23 at 23:58:16

山西左紀さん

コメント、ありがとうございました。

おおっ、サキさん「攻殻機動隊」ファンですか。
私は、劇場版の2作『イノセンス』と『GHOST IN THE SHELL』しか見てないのですが、けっこうはまりました。いいですよね、あの情報量の多さ。見る度に、なにか発見があったりして、面白いです。

サキさんの書かれる物語を読ませてもらっていると、私もなにか同じような志向性を感じていましたので、そう言ってもらえて嬉しかったです。

これからも、よろしくです。

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