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涼宮ハルヒの消失

 DVD化された、映画「涼宮ハルヒの消失」を観た。
 これは、紛れもなくシリーズのファンのための映画だ。一見の人には、この映画の魅力は半分も伝わらないだろうし、駄作と言われてもしかたがない。逆に、ファンの人々にとっては、至福の2時間40分となるだろう。私自身は、いうまでもなく後者だ。

(以下、多少ネタバレあり)

suzumiya-haruhi  syousitsu 01

 非常識極まりない登場人物たちが繰り広げる非日常的な日常を、ただ淡々と過ごしていた主人公に、突然の異変が訪れる。ある日を境に、主人公だけを除いて、世界の方が変わってしまったのだ。周囲の人々や、親しい友人たちの記憶も、まるで違ったものになってしまっていた。これは、悪夢か陰謀か、それとも……。
 この物語は、それまで傍観者の立場を崩さなかった主人公が、初めて積極的に世界と関わることを決意する通過儀礼を描いたものだ。
 その契機となったのが、異変による住み慣れた世界の喪失である。それは、自己のアイデンティティの喪失でもある。通過儀礼の物語において、喪失したものを取り戻すのは既定のことであるから、主人公は、穏やかで常識的な「改変後の世界」に留まることではなく、慌しくて非常識な「元の世界」に戻ることを、あまり躊躇することなく選択する。しかし、このときはまだ、主人公には世界に関わろうとする意思はない。なぜなら、その選択は主人公にとって「決まっていた」ことだったからだ。
 改変された世界を元に戻すためのプログラムが作動し、事件から遡ること3年前の時点に戻された主人公は、そこで、世界の改変が、誰によって、なぜなされたのかを知ることになる。それは、憎からず思っているひとりの少女によってなされたことだった。そして、その理由は、彼女に初めて芽生えたであろう、ある想いによるものだった。世界の改変は不可避であり、改変された世界を元に戻すには、改変がなされた直後に、その少女の在り方を修正するしかない。
 ことここに至って、初めて主人公に葛藤が起きる。今までは、与えられた状況のなかで、「それしかない」という言い訳が出来る選択をしていれば良かった。しかし、このときは世界をどうするのかを、主人公の意思と行動によって決めなければならなくなったのだ。
 少女を放置すれば、「元の世界」を取り戻す術はなくなる。しかし、「元の世界」を取り戻すことは、その少女が望んだ「改変後の世界」を破壊することに他ならない。「改変後の世界」でも、主人公たちはまた出会い、ごく普通の少年少女として楽しく過ごすことはできる。そもそも、主人公自身も表向きには、「元の世界」にうんざりしていたのではなかったか……。
 このあたりの演出は、この映画のなかでも、屈指の出来だ。
 そして主人公は、自身のアイデンティティが「元の世界」を望んでいることを自覚し、その世界を取り戻すことを決意する。それは、すなわち、自ら世界のあり方に関わっていこうとする意思の現われであり、主人公が後戻りのできない、新たなるステージに踏み出したことを意味する。それを成長と呼ぶのか、喪失と呼ぶのか、それは受けとる者次第だろう。
 それは、この「涼宮ハルヒ」シリーズにとっても、大きな転換点になっている。それまで、物語の「語り部」だった主人公が、物語の「演じ手」になったのだから。実際、映画のなかでも次の物語への布石がたっぷりと打たれており、これからシリーズがどうなっていくのか興味は尽きないが、この物語は余韻を残しつつ、そこで幕引きとなる。
 全編において、作画、演出、音楽の出来は素晴らしく、単体のアニメ映画としてのレベルは極めて高い。
 映画の主役は、件の少女だが、彼女に関する描写の密度と濃度は尋常なものではなく、関係者全員の彼女への思い入れの深さが、これでもかというくらいに伝わってくる。
 惜しむらくは脚本で、シリーズものの一部を忠実に映画化したことが裏目に出ていて、メリハリがなく、盛り上がりに欠けたまま終わってしまうことだ。このあたりは、もう少し工夫が欲しかったと思う。
 しかし、冒頭にも述べたとおり、この映画はファンに向けて作られたものだ。せめてTVアニメを見てから鑑賞するのが、この映画に対する礼儀であり、そうした人になら、これで必要十分なのだ。
 これで、映画の感想は終わりだ。ここから先は、私の独り言である。およそ支離滅裂かつ意味不明な文章なので読み飛ばして頂いて差し支えない。
 ……キョンよ、有希が持ち始めたモノは、ただの「感情」なんかじゃないだろ。病院の屋上での会話、そんな言葉じゃ有希は救われないぞ。お前のその鈍感さが、有希の暴走の本当の理由なんだよ。古泉のセリフじゃないが、ほんとうに「羨ましい」し、朝倉のセリフじゃないが、ほんとうに「許さない」からな!

suzumiya-haruhi  syousitsu 02
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コメント
3:いいよね by ひゅひゅ on 2011/03/04 at 22:56:49 (コメント編集)

あ、先だっては新大阪でお話できてたいへん楽しかったです。
ハルヒは原作を読みましたが、いまだかつて無い速度で6冊読み終わって、これがライトノベルというものなのかと感服したものです。
特にこの作品の巧妙に計算されたストーリーの展開の仕方に感心しました。
このシリーズの中でも「消失」は強く印象に残っている作品です。シャープMZシリーズ風の「Ready?」というプロンプトとその前後のやり取りの部分はぐっとくるものがありました。
仕事でメールをやり取りしている人の中にyukiさんという人が何人かいるのですが、そのアドレスを見るたびに、「こ、このメールは!」と思ってしまいます。
ちなみに最近ブログはじめてます。むろん読む価値はありませんが、いちおうURLは記入しておきます。ではまた!

4:涼宮ハルヒの消失 by TOM-F@管理人 on 2011/03/05 at 09:20:53

>>ひゅひゅさん

コメントありがとうございます。
 久し振りにゆっくりお話しができて、楽しかったですね。
 「涼宮ハルヒ」シリーズは原作は読んでいませんが、TVアニメシリーズでファンになりました。この映画も、予備知識がなかったり、さらっと見てしまったりすると気づかないような、実に精密な作り込みがされていて、感心しました。ファンの心理をよく理解した人たちが作った映画なんだなぁと思います。
 それにしても、『消失』での長門有希の可愛らしさは、筆舌に尽くしがたいものがありますね。「ありがとう」という、たった一言の破壊力の凄まじさたるや……。私は、一発KOでした(笑)
 こういう作品に出会うと、自分自身の創作意欲も刺激を受けますね。今、自作小説の改稿にとりかかっています。もう一本、書きたいネタもあるのですが……。時間も筆力もないのが残念です。

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