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コクリコ坂から

 スタジオジブリの最新作、「コクリコ坂から」を観た。

 昭和30年代の横浜のノスタルジックな風景の中で展開する、ボーイ・ミーツ・ガールの物語である。高橋千鶴(作画)・佐山哲郎(原作)の同名コミックスの映画化作品だ。
 じつは、TOM-Fはこの映画を見るのを楽しみにしていた。プロモーションビデオやキービジュアルの出来栄えが、とても良かったからだ。

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 忙しくて劇場には行けなかったが、興行成績の好調さを見聞きするたびに、早くDVDが出ないかなぁと心待ちにしていた。
 ここにきて、ようやくDVDで鑑賞する機会が持てた。約1時間30分の映画を見終えたあとに、TOM-Fが感じたことを書いてみたい。

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 アニメーションの技法については、満点に近い。
 奇抜さで目を引くような小細工はいっさいなく、オーソドックスでありながら、細かなところにも気を配った丁寧なアニメーションは、地味だが極めてレベルが高い。真正面から正攻法で取り組んだその手法は、万人に安心して推薦できる、じつにスタジオジブリらしい映像美だ。

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 音楽に関しては、まずまずといったところ。個々の音楽は悪くないのだが、全体としての統一感に欠けるように感じた。深刻なシーンに軽い音楽をつけるというのは、冷静に物語を見て欲しいという制作者の意図があったようだが、私には違和感の方が強かった。
 シナリオと演出に関しては、いまひとつといったところか。

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 原作を大幅に改編したというオリジナルのシナリオは、筋としてはけして悪いものではなかった。少女と少年の置かれた状況も丁寧に描いているし、学園のクラブハウス存続運動にほのかな恋愛模様を絡めた描き方も、それなりに面白いものだった。

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 だが、全編を通して平板な演出で、盛り上がりに欠けていたのが残念だった。少女と少年の心象の描写が、薄すぎたのだと思う。たとえば、惹かれあった少女と少年のが、実の兄妹ではないかという出生の秘密が明らかになったあとの苦悩や葛藤が、さらっとしか描かれていないので、ラストシーンが軽い印象になってしまっている。

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 実を言うと、映画を見終わったあとにいちばん強く感じたのは、シナリオとストーリーにつきまとう違和感だった。もしかしたら、この作品には、本来ならそうあるべき、別のストーリーが存在するのではないか。手嶌葵が歌う「さよならの夏」を聞き、エンドロールを見ながら、そんなふうに感じた。

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 総括すると、本作は、良作であると思う。
 音楽のアンバランスさと、シナリオの違和感のせいで、せっかくの映像美が活かしきれていないのが、ちょっと残念だったが。

 最後に、スタジオジブリに対して、ひとつ苦言を呈したいと思う。
 アニメーションのアフレコには、プロの声優をキャスティングしてもらいたい。
 タレントや俳優・女優は、声だけで演技をする専門家ではないので、やはり上手くないのだ。声優にもレベルの低い人はいるが、スタジオジブリなら実力のある声優をキャストすることは造作もないはずだ。声の演技も、アニメにとっては重要なファクターだと思うのだが、いかがだろうか。
 次回の映画は、プロによるプロの仕事の凄さを見せ付けて欲しいと、切に願う。

 映画「コクリコ坂から」のシナリオについて、ちょっと独り語りをしてみたい。
なお、以下の内容は、TOM-Fの妄想を書き連ねたものなので、ジブリファンや、コクリコ坂ファンの方がいらっしゃったら、ここで引き返していただくか、読後に一笑に付してお許し願いたい。

 さて、本文でも触れたが、この映画のシナリオには、拭いきれない違和感がある。
 キービジュアルやプロモーションビデオや主題歌のイメージから、TOM-Fがこの作品に期待したのは、甘酸っぱくて爽やかなラブストーリーだった。主人公の少女と少年の、ほのかな恋心にスポットを当てて、静かで優しく、そして切ない演出で、青春の光と影を描いて見せてくれるのかと思っていた。

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 だが、映画のストーリーは、少女と少年の出会いから恋の成就までのほぼすべてのイベントを、部室棟(カルチェラタン)騒動に絡めて描いている。しかも、騒動を描くのに相当の尺を使っているので、まるで騒動が主で、恋が添え物のようになっている。
 少女が、毎日旗を揚げるという、本作を象徴するシーンがある。船の事故で行方不明の父親に思いを馳せながら、少女は旗を揚げているのだ。だというのに、そのシーンがほとんど印象に残らない。
 クライマックス、少女と少年の出生の秘密を語った人物が遠洋航海に出るのを、はしけ船の上から二人で見送るというシーンで、主題歌が流れ出す。手嶌葵が歌う「さよならの夏」だ。感動するシーンのはずなのに、歌詞が映画のストーリーとまるで合っていないので、居心地の悪さだけが残る。
 ラストシーンは、晴れやかな笑顔の少女が、いつもと同じように旗を揚げるカットだ。
 え、これで終わり?
 エンドロールを見ながら、そう思った。いったい、なんなのだ、これは……。

 そこで思ったのが、本文でも書いたとおり、この作品には、隠された違うストーリーがあったのではないかということだ。
 多分にTOM-Fの趣味全開な内容になるが、鑑賞後に、あのキービジュアルや主題歌から思い浮かんだアナザーストーリーを紹介したい。

 ――

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 海難事故で行方不明になった父の帰還を祈って、少女は毎日、旗を揚げる。私はここにいる、ここがお父さんの家だよ、という思いを込めて。

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 その旗を、海から見上げる少年がいた。毎日、通学の船の上から、ほのかな憧れの気持ちを抱きながら。
 やがて、ふとしたきっかけで少女と少年はめぐり合う。船乗りになる夢を持つ少年に、父親の面影を見た少女は、少年に惹かれていく。少年も、あの旗を揚げていた少女だと知って、恋心を抱く。二人は、ゆっくりとだが、順調に愛情を育んで行く。

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 だがそこに、大きな障害が立ちはだかる。
 それは、二人が実の兄妹ではないかという疑惑と、少年の夢の実現だ。
 二人は、葛藤する。そして、その結論が出ないまま、少年が船員として船出する日が来る。待っていてほしいと告げる少年に、少女は答えを返せない。そして、少年を乗せた船は、港を出て行く。

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 残された少女のもとに、兄妹疑惑が終戦直後に行われた孤児の引き取りの混乱によって生じたものであり、少年との間に血縁はない可能性があるという事が知らされる。
 少女は、少年の乗った船を見送りながら、旗を揚げる。
 父が帰ってくる未来、愛しい人と結ばれる未来を信じて。私はここにいて、ここで貴方を待っているという思いを託して。
 コクリコの咲く、坂の上で。

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――

 このアナザーストーリー、いささか恋愛に偏りすぎて、ジブリの映画としては面白みに欠ける内容になるな、と思う。
 だが、もしこんな脚本が映画化されるとしたら、ジブリなら、「海がきこえる」の望月智充か、「耳をすませば」の近藤喜文(いずれも宮崎駿は認めないだろうが)、ジブリ以外なら、「秒速5センチメートル」の新海誠か、「時をかける少女」の細田守あたりが監督をすれば、胸がキュンとなるような作品に仕上がっただろう。
 そう、そういう作品として、見てみたかった映画だったのだ。
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コメント
98:No title by 八少女 夕 on 2012/10/25 at 02:38:02 (コメント編集)

こんばんは。
本編を観ていないので、まったく感想が言えないのですが、ひとつだけ。
ジブリ映画にくっつく、あの最後の歌、やめてほしいんですけれど!
いや、あれこそがジブリだとお思いになる方がいて、TOM-Fさんもそのお一人かもしれないんですけれどね。
いつも本編の本質とも久石譲の音楽の世界ともまったく合っていないんだもの。
とくに「千と千尋」はがっかりでしたね。

100:Re: No title by TOM-F@管理人 on 2012/10/25 at 10:20:35

八少女夕さん

いつもコメントありがとうございます。

まったく同感です。
「コクリコ坂から」も相当に酷いものでした。あれなら、無いほうがはるかにマシです。
(もし未読でしたら、続きを読む以降もご一読ください)
あれに最優秀アニメーション作品賞を贈った日本アカデミー賞にも、売れりゃいいのかいと言いたくなりますね。そんなことだから、ジブリがだめになっちゃうんですよ。

私がジブリの長編作品でお勧めできるのは、「紅の豚」と「天空の城ラピュタ」くらいですね。
この二つは、シナリオもアニメーションも音楽も、よくできている作品だと思っています。
次回作では、ぜひ原点に返って、面白い映画、うならせる映画を作って欲しいですね。

105:No title by 宮樹弓子 on 2012/11/07 at 02:39:16 (コメント編集)

お久しぶりです! 宮樹です。
『コクリコ坂から』も微妙なんですねー……。わたしも本編は見ていないのですけども。
海や船が好きなので、期待があったのですが。
最近のジブリは、「どうしちゃったの」という映画が多いような印象です。
『ラピュタ』は、わたしもとても好きです。
あとは声優に関して同感ですね。
プロの声優をキャスティングしてほしいです……。
これはもう、うなずくばかりです。わたしも長年、同じことを思っていました!
やっぱりタレントや俳優・女優は声の演技の専門家ではありませんものね。
ジブリは実力はあるんだから、妙な奇をてらわないでスタンダードな名作を生み出してほしく思います。
願わくは、ボーイ・ミーツ・ガールの冒険活劇とか。

106:Re: No title by TOM-F@管理人 on 2012/11/07 at 14:33:11

宮樹弓子さん

コメントありがとうございます。

はいっ、お久しぶりです。嬉しいなぁ。
コクリコ坂は、海と船はほぼ出てきません。映画の大半は、クラブハウス存続騒動を描くことに費やされています。どうしてこのタイトル(原作)を使ったのか、理解に苦しみます。

そうですね、最近のジブリは……淋しいかぎりです。
次回作あたりが、正念場じゃないでしょうか。本気で面白い映画を作らないと、いつまでもお客さんは入ってくれないんじゃないかな。

>スタンダードなボーイ・ミーツ・ガールの冒険活劇
 そうそう、それですよ。そういうジブリ映画を、私も見たいんです。

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